テノリイノリへ その2「伏線の回収」

テノリイノリが生まれるきっかけを綴っていまして、今回二話目。

ドラマだったら、これもしかして 伏線になるの?と よくその意味を確認しながら進めることができるのだけど、そうはさせないのが現実。

ホームラン予告みたいに「あと2、3年でいいかな(寿命)」と父が何度か言った時、70代になるかならないかで勘弁しろよーくらいに流していたが 、あれきり言わなくなったのをすっかり忘れて父との予告通りの最後の一年はなぜか帰省する機会に恵まれて、社会人になって一番会うことが多くなっていた。

かつてスナックのマスターだった父は昼間の時間をゴルフの練習に費やして、ここでもまたゴルフのマスターならぬコーチにもなったのに、あの運動能力はどこへやら。気づけば家で座ったきり老人になったり、復活のために歩きっぱなし老人になったりを繰り返す。
東京に遊びに来てよという誘いに応えるようにウォーキングも頑張っていたころもあったけど、最後の夏は東京で姉と一緒にウナギを食べに行こうと誘うと、イイネーと嬉しそうにするものの、定食屋に入ってウナギがセットに付いていたらそれを注文して目の前で機嫌よく平らげる。
コノヤロ、来る気ないのかよと心で突っ込みいれるけど、それが全部の答えだったんじゃんって今は思う。

11月に帰省して、正月は帰らなくてもいいかな?と言うと いいじゃない帰ってくればと誘ってくれる。正月一杯やりましょうよと。
じゃあってことで一か月後の正月に帰ると、いつものイツカエル?メールも来ない。電話も出ない。家まで行くと目の錯覚?って思うくらい全身から色素が抜けた父がつっ立っていた。(こんな光景人生初なので対応の心がけがわからん)ボケたのかなと焦って話しかけたり、マッサージすると、反応は遅いんだけど判断とか思考だけはしっかり「(マッサージは)うまいね」「(土産のお茶は)味が悪い」といつも通り批評だけはしっかりじゃねえか(ムカ)と思うが体が全然動かないし気力もない。何かが違う。

以前に足の手術をした時、万が一手術で 帰らぬ人になった時のために、正月にふぐ刺しで一杯やってからにしたいと言って予定を延期って発想になるくらい好きなふぐ刺しでビールを飲み、その正月も父の様子の変さを除けば毎度の正月らしい正月だった。

ふぐ刺しから二日後の昼下がりに父の家に行くと、いつも通り朝の炊きたてご飯をお供えした仏壇の部屋にも姿はなく、ヒートショック対策もしっかり行われたあたたか~いお風呂場でグッタリもうダメって感じの背の父を発見して救急車呼んだり、姉弟呼んだり、帰らぬ人にてんやわんや。

この一連のことで思ったのが家に行くまでの道のりも、全部がベストタイミングになるようにできていたこと。ほどほどの寄り道は出来るけど、それ以上は出来ないようになってて、早くて着いて心臓が止まる瞬間に立ち会うわけでもなく 遅すぎて死亡現場的な遺体になっているわけでもない狙ったような時間だったのだ。しかも寄り道先で看板の鳥マークを見つけて 可愛いいーと草むら駆け寄ったら 側溝に落ちて「魂抜けた〜!」って 叫んでて いやあんた ほんとうに抜けたのは父の方だよって どっかからあの場で突っ込まれてなかっただろか。

そして突然亡くなる人が割と身近にいたから、頼むから誰か死んだら死にたてホヤホヤに会わせてくれと子供のころ言っていた私の希望を父も母もそれだけは妙に覚えていて、まるで叶えてくれたかのよう。

これまでの父の晩年の日々は物質的な豊かさを失ってもいつも創造的に生き方や遊びをリニューアルして豊かだったし、肉体の機能が衰えていく様子は一種のこれも修行なのかなあ、一言も不平不満も言わずに対処していた。

最終週は振り返れば色のグラデーションのようにああこれが命が終わるってことか、植物やほかの動物たちの命が終わっていくのと同じように死んでいく姿を短期間に見せてもらった気がする。哀しいとかショックもあるのだけどそこで見たり感じたりして学ぶことがとにかく多かったのだ。

その上、自分がこうしよう ああしようって自分の思い付きや意志でやっているつもりのことが不思議なくらい全部この状況において助けになるように動いていて、警察に亡くなった状況を聞かれる際に普段の生活パターンとかを聞かれても答えられるような情報は最後の数日間に本人から聞いたものばかりだし、いつもではありえないくらい地味な服を持っていて葬式に問題なくシフト出来たり、最後に撮った写真はここ数年で一番遺影にベストなショットが撮れていて遺影にもバッチリ、ドラマだったらちょっと不自然だけど自分が冴えているのか、導かれてるってことなのか、全てはこうなるようにレールに乗ってしまっていたように思う。そしてこの経験にある程度は落ち着いて対応するのに必要ことはやさしいくらいに揃っていたのだ。

テノリイノリ まだ出てこない!

続きます

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